今回の展示で出品される作品は、渡邊さんが地方にあるタイル工場に行き、そこでインタビューをした実在の人に着想を得ているとのことでした。 インビューでKさんは「言われたことをやってる方がいい」と渡邊さんに語り、渡邊さんも〈工員K〉でそのセリフを繰り返しながらパフォーマンスをする。 渡邊さんはKさんに近づくために、トレーニング用のゴムチューブを身体に巻きつけ、腕に負荷をかけ、Kさんの体重分のタイルをただ左から右へ一枚一枚、動かす。 左手でゴムチューブを掴んで、右手にそれを巻きつけ、わざわざ負荷がかかるように長さを調節してタイルを移動させる。それを繰り返す。 渡邊さんは「どうしたらKさんに近づけるだろう?」と考えたと言っていました。 ただ体重分のタイルを動かすのでは不十分だと思い、自分自身の身体にゴムチューブを巻きつけたのだと思います。 しかしKさんにとって、Kさんの労働は過酷なだけでしょうか。 肉体的には過酷かもしれないけれど、Kさんはいろいろ考えるより工場労働の方がいいと言っているし、Kさんから見たら、渡邊さんの方がしんどい作業をしていると思うかもしれない。 ここに作家、渡邊拓也さんの視点が現れていると思います。 渡邊さんは〈工員K〉を苦しそうに演じている。(実際、かなり苦痛だと思う。) たしかにこの作品を見て私は最初、工場労働者の苦痛を感じ取ったけれど、途中からなんだか笑えてしまった。実際の映像をよく見て欲しいのですが、工員Kは作業中、変な顔をしています。 それは苦痛に歪んだ顔にも見えるし、なんだか笑っているようにも見える。ここで渡邊さんが描き出したのは苦と快が交差するある種、普遍的な姿のように見えました。 文責:木野允寛 渡邊拓也 Takuya Watanabe
1990年東京都生まれ。2016年に東京藝術大学大学院美術研究科を修了。 個展として「作った(られた)ものから考える。」(トーキョーワンダーサイト、東京、2015) 「ニチジョウノサケメ」(トキ・アートスペース、東京、2014) 主なグループ展に「アートアワードトーキョー 丸の内 2016」(丸ビル1階マルキューブ、東京、2016) 「トーキョーワンダーウォール公募2014入選作品展」(東京都現代美術館、東京、2014)など。 受賞歴に「アートアワードトーキョー 丸の内 2016」審査委員賞(東京、2016)など。 作家サイト WATANABETAKUYA_WORKS
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